親族内承継の難しさ

2022.02.01

年商約3千万。従業員3名。創業当初よりベテラン従業員に支えられ、地域密着でリピート率がかなり高い、顧客からの信頼も厚い店舗です。

【美容業】事業承継関連施策の事例

事業承継に必要な3つの鉄則

事業承継に必要なのは動き出し

3年前に公的機関から派遣された美容店が、ようやく息子さんに親族内承継できた事案です。

当時は、経営者自身、事業承継に関する制度内容についてご存じではあるものの、息子が継いでくれるにはどうすればよいか、それともこのまま廃業するか、従業員に承継するか、選択できず悩んでおられました。

息子さんは美容師です。大都市の美容室に勤務しておられ、地元に帰ってくる気配もないことから、息子の人生に口出しはできないと特に承継について聞くこともないままの状態でのご相談でした。

当該店舗はベテラン従業員に支えられ、地域密着店舗でリピート率がかなり高く、顧客からの信頼も厚い店舗です。廃業するにはあまりに惜しいと感じ、事業承継計画を後押しをする方向で話を進めました。

それには、息子さんが未婚だったことも大きな要因となりました。

早速、息子さんの承継の意志を確認。もし意志がなければ、従業員への承継か廃業となる旨を伝えたところ、数年をめどに地元に帰りたいという意思のあることがわかり、経営者の年齢も考え、急ぎで事業承継を押し進めることになりました。

現状 老舗美容店の後継者不在
業種 美容業
 高いリピート率で施術一貫主義の美容店
年商 30,000千円
企業規模 従業員3名

後継者を主とした計画性

事業計画書策定

まず着手したのが、事業を円滑に承継できる顧客カルテとPOSレジ連携による業績評価や顧客管理が行えるシステム構築です。また店舗も古かったので、新しい店舗で息子さんを迎え入れたいということで土地や建物探しも始めました。

税理士と私で話し合いを交え、事業面の継承はうまくいくと判断し、手続き面や税務面を重視して承継する計画を策定しました。

そこに新型コロナウイルスの感染拡大。類にもれず巻き込まれ、売上低下、一時は承継を延期するかとの話もありましたが、税理士と手続き面で着手することになりました。

新型コロナウイルス感染拡大がありながらも、高いリピート率の顧客とベテラン従業員に支えられ、事業面はなんとか乗り越えていきました。

さらに新店舗に相応しい土地と建物を見つけ、経営者と我々専門家によって、後継者へ事業計画書策定を進めていくことにしました。

そんなときに、菅政権が打ち出した施策、建物費も補助金申請可能な事業再構築補助金の公募が出ました。経営者は息子さんに立派な次世代店舗をプレゼントしたいとの思いが強く、事業再構築補助金申請に後継者を挑戦させ、見事採択。その他にも持続化補助金、IT導入補助金など次々と採択されました。普段、感情を表に出さない経営者でしたが、この時は喜びがあふれるばかり。後継者も、自信につながったことと思います。そしてそれが、徐々に継ぐ覚悟に変わっていくものと思われます。

現在は事業承継も決まり、来年には代表権を承継します。新しい店舗も、事業再構築補助金によって建設中です。

事業承継関連施策

■補助金

事業承継・引継ぎ補助金

持続化補助金

IT導入補助金

ものづくり補助金、ものづくり高度連携補助金

事業再構築補助金

福岡県事業承継準備応援補助金(2021年まで)

■保証

事業承継関連保証

コンサルタントからの一言

中小企業白書2019年版によると事業承継の実行期間は意外と短く、1年未満が48.2%と約半数を占めており、今回の事案のとおり進めば早いのですが進まないと遅くなってしまうことが鮮明にわかりました。

現経営者の事業承継に大切なのは「不安の解消」「継がせる覚悟」と現経営者の「後継者へのお膳立て」が重要であり、我々専門家も「動き出し」「後継者を主とした計画性」「事業承継関連施策の提案」の重要性を改めて痛感させられた事案でした。