補助金を得て、年商を超える設備資金を獲得

2023.06.29

補助金を得て、年商を超える設備資金を獲得

『機械製造業の設備導入×補助金申請』について、中小企業診断士の髙野晋一さんにお話を伺いました。

今回お話頂ける補助金申請について、その概要を教えてください。

対象企業は、金属部品加工業を行う企業様です。
年間、3000個を超える自動車の金型部品の生産に加え、1品から請け負う小ロット対応、特急での加工と、幅広い対応を行っておられます。
しかし、それらはすべて手動による製造であり、長年の経験と蓄積された技術、そして勘に頼るところが多く、後継者の育成も難しい状態となっていました。
そこで、進み行く高齢化、人手不足、設備の老朽化を改善するべく、補助金を活用し、最新鋭設備の導入に踏み切りました。

 

しかしながら当時の資産状況は芳しくなく、設備導入資金のほぼすべてを調達しなければならないと判断。補助金の活用と共に、金融機関への融資も受けなければなりませんでした。
ただ、その見積額は年商を超えるものであったため、通常であれば不可能とも言える道のりです。一般的には、借入額は月商の3ヶ月分程度が目安とされていますから、年商超えの借入金は”危険”と捉えられてもおかしくありません。

 

そこで、この”危険”という概念をいかに払拭するかを課題として、”設備投資によって期待できる収益を実現可能性のある数字で明示する”ことを丁寧に行うため、材料を整えていきました。

最新鋭設備の導入により、見込まれたメリットを教えてください。

本企業は大変高い技術を持っており、取引先からの信頼も厚く、これまで幾度となく日本を襲った不景気の波も、いくつも超えてこられました。
しかし、その技術を支えるのは個人の力量のみであり、何十年も先に、現状を維持し続けることは困難な状況。また、将来に至らずとも、いまの段階において新しい加工を受け入れる余裕はまったくなく、ギリギリで現状維持を守っている状況と言えました。

 

しかし、ここに最新鋭設備の導入が叶えば、加工時間の短縮が叶います。それは、加工コストの削減となり、利益率の向上を意味します。
また生産工程をシンプルにすることで、経験の浅い人材でも作業が可能となり、人手不足解消にも繋がることが考えられます。
さらには、生まれた空き時間を活用することで、新規事業も見込まれてくるでしょう。
最新鋭設備の導入がもたらすメリットは、非常に幅広く、大きい物であることを、事業計画書に盛り込んでいきました。

年商超えという、困難とも思われる設備資金獲得のため、行われたことを教えてください。

設備投資を行うことで、どのような収益が期待できるのか試算を行い、明示しました。また、1ワークあたりの作業時間についても、どれだけ削減できるのか、それにより、加工コストがどう減ってくるのかも緻密に検証し、収益と削減、両面からのアピールを行いました。
あわせて、投資回収期間についても記載。計画書内に、返済についても丁寧に盛り込むことで、年商超えという一見無謀な借入金が、実は実現可能性の高いものであることを形容していきました。
また、オーナー様の展望や、具体的な外部環境情報、量産体制とすることの必要性についても書き添えることにより、厚みのある内容としていきました。

実現したメリットを教えてください。また、想定との違いはあったのでしょうか。

補助金と金融機関からの融資を得て、最新鋭設備の導入が叶ったことにより、それまで人頼みであった生産管理が自動化され、加工時間の見通しが立てられるようになりました。
なんと、加工時間の2/3カットを実現!
これは想像を超える効果であり、想定していた投資回収期間の大幅縮小を期待させる結果です。

 

そして、生産管理が非常にシンプルなものへと変化したことで、属人性が解消。それまでの技術者の採用には多くの条件が必須で、なかなか採用に繋がらないとご苦労を聞いておりましたが、今では対象者の拡大が実現。金属加工経験の浅い職人の採用ばかりでなく、なんと、子育てママの採用も可能としていると言います。
これほどに柔軟な体制が整うことは想定外で、今後の人材活用に期待が高まります。

 

取引先からも、今まで通りの高品質で安定した金属加工技術を保ちながら、加工期間を短縮できたことに高評価を得ているとのこと。

 

最新鋭設備の導入により得られたメリットは、どれも想定を超えてくるものとなっています。これらの結果により、今後、新たな発注や依頼にも繋がる可能性も多分にあるものと考えています。

補助金申請までの工程を教えてください。

補助金の申請は、以下の流れで行っています。

 

① 投資したい内容の把握
② 投資総額の算出
③ 融資予定の見積り
④ 投資効果の想定
⑤ 市場の開拓

 

これらを丁寧に積み重ねていくことにより、採択に繋がる事業計画書となって参ります。
また、作成後は、設備投資計画に関するモニタリングや、投資に基づいたオペレーションの改善などにも助言が可能です。

設備投資を考えている方へ、ひとことお願いします。

機械製造業において、設備投資を考えるタイミングは幾度となく訪れることと思います。それを実行に移すかどうかは、以下の内容と共に検討して欲しいと思います。

 

・投資で得られる効果

・外部環境情報の整理

 

オーナー様での検討や判断が難しい場合には、調査やモニタリング含め、ご提案をさせて頂きます。
お気軽にご相談ください。

編集後記

補助金や金融機関からの融資を得て設備投資を行い、生産管理のシンプル化や技術継承をスムーズにするなど、中小製造業が抱える各種問題の改善に取り組んでおられる髙野さんに、お話を伺いました。

年商を超える設備投資計画は、オーナー様にとって、今後への期待以上に大きなプレッシャーにもなることと思います。
緻密な事業計画書の作成は、補助金の採択や、金融機関からの融資を実現に導くことと同時に、設備投資後の事業運営において、オーナー様の力強い支えにもなるのだと、お話を伺う中で強く感じました。

コンサルタントからの一言

技術に裏打ちされた手工業は伝統であり、大変素晴らしいもの。しかし、その継承は容易ではなく、新たな人材の確保もままならない状況です。早い段階での設備導入が、技術を未来へ繋げると考えます。