2007年創業の食料品卸売業。
ラーメンやお菓子などのお土産商品を製造業者や飲食店と共同で開発し、博多駅や福岡空港、インバウンド施設などの店舗に卸売販売を行っている。また、一般消費者向けにネット販売も行っていたが、現在では撤退している。2017年売上高1億円弱であったが、事業の選択と集中を実施し、ギフト用加工食品の企画メーカー化を推進することで、2020年売上高は2億円と倍増し、営業利益は3倍増を実現した。
現在では、企画メーカー化を更に進め、順調に取扱商品や販売先を拡充させている。
どんなに優れた経営者でも日々の業務に忙殺されると経営的な思考が停止状態になってしまいます。経営者の経営的思考が停止してしまうと、頑張っているにも関わらず業績が停滞するという状況に必ず陥ります。
その際には一度立ち止まって、第3者の意見を交えながら経営に関して熟考することが重要です。
当初、オーナー様とお会いし、お話を聞かせてもらった際に頻繁に出てきた言葉は「従業員が思い通りに動かない」「仕入先を開拓する時間が不足している」「ネット販売がうまくいかない」「金融機関の返済が大変」などのマイナス要因ばかりでした。
しかし、意見交換を進める中で経営を好転させる良いアイデアを発見することができ、また、売上低迷や利益が残らない根本的な理由も判明しました。その『経営のツボ』に気付いた時のオーナー様の明るい顔は今でも忘れることができません。
経営資源が特に不足している中小企業にとって、まずは経営を好転させるアイデアや売れない理由などの『経営のツボ』を見つけることが大事です。その後、そのツボを強く押すことで業績向上につながります。
そして、私は『経営のツボ』はどの企業にも必ず存在していると確信しています。
現状 | ■食料品卸売事業 2017年時点で仕入先60社程・販売先90社程であったが、現在では仕入先100社程・販売先150社程と拡大している。 2017年時点で粗利率10%程であったが、現在では23%程まで改善している。 ■食料品ECサイト販売事業 2017年時点で粗利率6%程であり、販管費を踏まえると赤字であった。ECサイト販売事業で1,000万円程の売上を計上していたが、同業他社との値下競争の激化や将来的な配送料の増加などを踏まえ一時撤退した。 |
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業種 | ■食料品卸売事業 ラーメンやお菓子などのお土産商品を博多駅や福岡空港、インバウンド施設などの店舗に卸売販売。 2018年度より全国の製造業者や飲食店と商品の共同開発を推進している。 ■食料品ECサイト販売事業 2020年時点では一時撤退中である。現在では、販管費などを踏まえた適正粗利が確保でき、同業他社が真似すること困難な独自商品の開発を進めており、2年後には再度参入する計画である。 |
年商 | 1億円弱(2017年度)、2億円強(2020年度) |
企業規模 | 従業員5名(取締役含む) |
一般的に、流通業、特に卸売業は「鶏が先か、卵が先か」という因果性のジレンマを抱えています。「優良な仕入先や商品を持っているから優良な販売チャネルが開拓できる、優良な販売チャネルを持っているから優良な仕入先や商品が舞い込んでくる」のどちらかというジレンマです。
当企業はそのジレンマを克服し、2017年段階で優良な仕入先60社程・販売先90社程を保有しています。特筆すべきは、その仕入・販売体制を7年弱の短い期間でオーナー様が一から構築されたという点です。
紙面の都合上、ここではその秘訣は割愛しますが、その営業力と企画力をオーナー様が有しているということが当企業の絶対的な強みであり、現時点ではそれら強みが生かされていないということが業績低迷の主要因(=経営のツボ)と判明しました。
そこで、当面1年間の間は社長の営業力と企画力に今一度経営資源を集中させ、2年目以降は従業員に営業力と企画力を水平展開することで、業績の向上と経営の安定化を図ることを提案しました。
●利益が残らない事業から一時全て撤退
販売先別、商品別に利益分析を実施しオーナー様と意見交換した結果、食料品卸売事業内のカタログ用卸売と、食料品ECサイト販売事業は両者で3,000万円程の売上を計上していましたが、当時の商品力では利益を残すことが難しく、オーナー様も多大な時間と労力を費やしていました。
そこで、事業の選択と集中の第一段階として、食料品卸売事業内のカタログ用卸売と、食料品ECサイト販売事業から、一時撤退を決断しました。
●独自性が高く、粗利率が高い新商品開発
これまでの食料品卸売事業は仕入商品が中心でした。しかし、どこにでもあるような類似商品を単純に仕入れてきて卸売しても、小売店での陳列期間が短い(値下要求や返品による粗利率低下)、そもそも粗利率が低いなどの問題が発生します。その状況でいくら頑張っても利益は残りません。
試算した結果、企画メーカー化(=仕入先製造による自社独自の新商品の開発)を進めることで粗利益率が倍増することが分かりました。そこで、一般商品者や販売先のニーズを踏まえて仕入先の商品を改良することができるというオーナー様の企画力を活かし、毎年20商品程の試作品開発を実施し、毎年5商品程の商品化が実現しました。
●時間と現金の捻出
一般的に、独自性が高く、粗利率が高い新商品開発には時間がかかります。しかし、お土産市場の先行きが不透明であることを踏まえると、経営改善を急ぐ必要がありました。
そこで、以下の対策を立て実行しました。
①オーナー様の帳簿付けなどの経理業務の削減と、これまで未実施だった売上分析などによる迅速な経営判断の実施のため、当社コンサルタントの中島税理士に数値資料関係を全て委託する。その結果、時間を捻出する。
②有利子負債に関して返済猶予または低額返済を実施することで、現金を捻出する。
③オーナー様が実施していたルート営業は従業員に全て移管することで時間を捻出する。また、空いた時間を活用して企画営業全てを当面の間オーナー様が実施することで時間を有効活用する。
④営業労力を最小限に抑えるため、利益が出ている既存商品を水平展開できる小売店に限定した上で、販路先のエリアを北部九州から広げることで利益を確保する。新規営業活動の際に、開発中の試作品の評価ももらうことで、後々の取引にもつなげる。
「事業の選択と集中」はよく聞く言葉ですが、サンクコスト(埋没費用)を考えるあまり、実行に移すことができる企業は非常に少ないと感じています。また、選択と集中を実行する際に、それぞれの目的と、そのための手段を間違ってしまい、上手く機能しない場合も多々あります。私自身も前職では失敗してしまったことも多々あり、それらがコンサルタントとして現在に生きていると感じています。
選択と集中が上手くいくと、売上高増加、利益高増加につながると確信しています。
当企業をご支援させていただき、3年程の月日が流れました。当初はオーナー様主導で進めていた新商品開発や販路開拓も従業員に一部移管できるようになり、全社的な企画メーカー化が進んでいます。
その結果、卸売業の要である仕入先は60社程が100社程まで、販売先は100社程が150社程まで拡大しています。また、粗利率も10%程が23%程まで改善しました。そして、当企業の売上高は2倍増、営業利益は3倍増と、3年前に立てた事業計画以上の結果となり、今後も更なる拡大が見込まれます。
コンサルタントからの一言