【親子間の株式譲渡】目先の譲渡だけでなく、本当に考えないといけない後継者問題とは

2023.12.20

企業様向け個別支援の一例として、親が、複数の後継者候補の中から後継者を決める際に注意すべきことを、全国展開する飲食店の事例を元に話を聞きました。

【親子間の株式譲渡】目先の譲渡だけでなく、本当に考えないといけない後継者問題とは

ご相談された事業者様を教えてください

とある税理士より、飲食店についてのご相談を受けました。
その飲食店は全国に10店舗を展開する企業で、相談内容というのが【所持している不動産について】でした。
この不動産は店舗を運営するために購入したもの。今回、その売買を考えておられると言います。しかし、調べたところ、非常に高くで売れるということが分かったというのです。そのため、すぐに売ってしまっては、1年の間に大きな利益が出てしまうことになります。そのような事態は避けたいと考え、予め、株式をご子息である3人の後継者にすべて譲渡しておいた方がいいのではないかということで、その方法について、ご相談となりました。

ご相談の詳細はどのようなものでしたか?

また、譲渡については、ただすればいいわけではなく、様々なご要望があるとのこと。
一点目、ご子息の年齢がまだ18~20歳と若く、他の従業員からの信頼を得るには至っていないため、社長としての運営はまだ難しいと判断。【今はまだ、株式の譲渡に留めたい】ということ。
二点目、株式を譲渡した後も、【役員の選任など運営に関する権利については、社長ご自身もまだ持っておきたい】ということ。
これらを、上手に解決する方法のご相談、というわけです。

具体的に何をしましたか?

まずは、株式の譲渡方法についてお話しました。
例えば、301株を持っているならば、その配分を、後継者の3人で均等に100株ずつとし、残りの1株を創業者が持つことにします。株を持つということは、イコール議決権となりますから、創業者も1株を持っていることにより、役員を選任や会社の動向を決める権利を維持できることとなります。
その上で、規定を設けます。
それは、数的には後継者となる3人へ99.9%の株を渡すわけですが、議決権的には創業者の持つ0.1%の株にも十分な力を持たせるという規定です。これにより、株主としての権利を保持させることが叶います。

そこで大事になってくるのが、“最終的には誰が継ぐのか”ということです。現状においては3人の後継者と言っているのですが、実のところ、気持ちの中では決まっているのかという部分です。一般的には、「長男が継ぐ」という話をよく聞きます。そのため、希望として内心決まっているのかどうかを確認しました。
株の考え方として、原則では、“数”が一番大切な部分になってきます。300株には300の議決権があり、1株には1の議決権しかないということなのですが、先ほども少し書いた規定を設けることで、実際の株数とは異なる力を持たせることができるわけです。

つまり、1株の所持にも関わらず、1000の議決権があるとすれば、株式の価値自体は渡しているものの、その支配という意味では1株を持つ者にあるということになります。
これは、創業者に1株を残しておくことと同様に、内心決まっている後継者の株にも同様の規定を設ければ、ある程度の道筋をつけることができることだと言えます。 しかしながら、本当にまだ後継者は決まっていないということでしたので、現状できることとしては、直近の問題である【会社の財産が上がる前に、株式の価値を引き継いでおく】こと。こちらを、今回しっかりと対応することとし、後継者の決定については今後の課題とし、これからも見守っていくこととしました。

後継問題の注意点とは?

先ほども少し触れましたが、【後継者が決まった後】が非常に大事で、実は落とし穴にもなり得るポイントがあり、注意しなければなりません。

例えば、後継が決まったとします。すると、他のご兄弟に渡っていた株を後継者の元へ集めることになります。全301株を後継者が一人で持つわけですね。そのためには、後継者となった人が個人で、購入のための同意を貰い、買い取らなければなりません。しかし、場合によっては、その金額がとても大きな金額になっている可能性もあるわけで、簡単なことではないのです。

会社の価値について考えてみましょう。
仮に、不動産の譲渡益が1億円出たとすると、価値も1億円上がり、株価も1億円上がることになります。それを、個人の資産で出せるのか、という部分ですよね。
こちらについても、どうするのかという部分を決めておく必要があります。
そしてもう一点。
万が一として、決めないうちに創業者の方が亡くなってしまう可能性についても、考えておかなければなりません。
皆さんが同等のご親族となりますから、3分の1ずつ相続することになります。これはつまり、誰が後継者か分からないということです。皆さんが平等。創業者が亡くなった後は当事者で決めてねという状況は、大きな問題を抱える可能性が高く、非常に難しい事態だと言えるのです。

以上のような事情をお話した上で、大変な事態とならないよう、「この人を後継に」と心が決まれば、すぐにでも株式を後継者に集める手続きをしていくことをお勧めいたしました。

その後、代表者様の後継者選びはどうなりましたか?

今回の案件は、後継者が決まっていないため、完了しているわけではありません。承継自体は、今もまだ続いている状態です。
現社長もご活躍中で、どんどん事業を広げ、業績は順調に伸びています。そして今後も、この状態は続いていくものと思われます。つまり、今後常に、「今年譲渡するのであればいくら」という把握をしていくことが求められるということでもあります。そして同時に、そのために必要な資金の調達についても、考えておかなければなりません。
“自分が決めた段階で渡す”ということは、そういうことなのです。
この件に関しては、継続的に、完了までご支援をさせていただきたいと思っています。

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