企業様向け個別支援の事例として、赤字続きで会社の経営状況を改善したい食品の卸売・小売業の事業者について話を聞きました。
事業者様は、2007年に創業された食品の卸売・小売業になります。
この事業者様、借入金に対して収支のバランスが取れておらず、赤字の状態がずっと続いているということで、会社の経営状況を良くしたい、要は売り上げを上げたい、経費を見直したいということで、金融機関様に対してもきちんと返済をしていきたいとの思いもあり、収支の改善ということでご相談をいただきました。
最初に、事業者様の決算書で会社の状況を把握させていただいた時に、売上が結構乱高下しており、いい時もあれば悪い時もありました。経費の中身を見ても、いい状況なものもあれば悪い数値のものもあるという風な形で、企業側だけが安定して成長している事業をされているわけじゃないなと分かったものですから、決算書に現れないような経営者様の性格や会社の組織体制、そういったことをまず聞かないといけないと思いました。
私が提供しているサービスは5つあります。
基本的に会社を持続的に成長させたいと考える場合、そもそも今の会社がどういう状況なのかを一回確認させていただく必要があるんですけれども、確認させていただいた上で、どういったところに問題があるんだというのを見ていきます。
そこで、1つ目のサービスとして、『ビジネスモデルの最適化』があげられます。
ビジネスモデルを最適化して、継続していくための仕組み作るわけです。そのために考えなければいといけないこととして、市場分析があります。顧客の分析をして、 競合の分析をするわけです。
次に、2つ目。それらを踏まえて外部の環境がどういう風になっているのか調査を行います。事業者様からのヒアリングや、いろいろな文献をもとに調査をしていきます。商品やサービスをどういう風に改良したらいいのか、新しい商品をどう作ったらいいのかを考え、こういう商品を作っていくぞっていうサービスになります。
最後に、3つ目。社内の体制です。商品やサービスを提供するためには、商品を仕入れるなどして、社内で作って、社内で提供していくことになります。こういう社内の体制がどうなってるのかというところが、ものすごく重要になってきます。
この3つを踏まえて、業務改善と人材育成を行う。
さらには、資金調達など運営をしていくために必要なものを揃えていくことになりますので、最終的には5つ、この5つを支援させていただくことが多いです。
そして、まとめた事業計画をお作りしています。
一般的なコンサルタントでいうと、決算書を見て「こういう風な方向性でやった方がいいよね」や「こんな事をしないといけないよね」という方向性を指し示したり、PDCAのとこでいう「P」のところを指し示すなどして、あとは事業者に「やってくださいね」という形になります。
私の場合は「D」や「C」「A」において、実行する段階やチェックする段階などにおいて、「では改善しようとした段階のことを踏まえて計画を作っていこう」というお話をします。
他のコンサルタントと違うのは、一般的にコンサルタントは、方向性を示す「P」をメインに作ったり、支援をしたりするのですが、「D・C・A」のところまでやりますというところが、私の場合違うかと思います。
さてそこで、私が何をやったのかということですが、まず1つ目として、今回の事業者さんは、食品の卸売業者・小売業者さんでしたので、置かれている状況や、競合の状況はどうなのか、市場は今後伸びていくのか、落ちていくのかなどを確認し、競合の商品、自社の商品、外部の状況、そして内部について見ていきました。
次に2つ目のところでいうと、商品です。自社が作っているのか、それとも自社で仕入れ、販売しているのか、この商品はどういう風に作られているのかを確認し、原価構造を判断。どれだけの粗利が取れるのかを確認していきました。
そして3つ目。集客や販促の部分です。どんな風に営業活動をしているのかについて確認を行いました。
最後に4つ目。社内体制のところです。いつまで資金が持つのか、資金繰りについての確認も行いました。
つまり、外部の状況や社内の状況を、ずっと調査する感じです。
企業に、やった方がいいと提言する内容とは、一般的に「売上を上げるためには営業を頑張った方がいいですよ」とか、ECサイトもやられていたので、「ECサイトをもっと頑張った方がいいよね」というところになるのですが、これではありふれていると思います。多くの方がそう助言するかもしれませんが、基本的に企業様は、知らないからやれないわけです。もしくは、知っていても気持ちが乗らないなど、やりたくないという思いがあるのだということ。これらは、大体、小売に当てはまるんですけども、そのような経営者様に先ほどの助言をしたとしても、やらないだろうな、もしくはやるとしても時間がかかるだろうなと感じられましたので、そこは排除しました。
その上で、この社長がやりたいこと、もしくは会社としてやれそうなことに注力し、支援をしていったという内容になります。
ここの事業者様、ECサイトにおいて自社で仕入れた商品を直に販売されていました。ここから、どうしても売上を作らないといけません。しかし、原価構造を無視して、利益があまり取れない状況でした。社長自ら、そして従業員全員でネット販売をやり、商品を配送、忙しく稼働されていたにも関わらず、です。
ECサイトの運営は、確かに売り上げは取れるけども、それ以上に社長の時間が忙殺されていましたし、従業員も疲弊していました。それらを考えると、結果的に利益はそんなに残っていないということになり、しばらくお休みしてもらうことにしました。
そして、空いた時間にすることなんですが、元々この事業者様は、他の食品の製造業者様から商品を仕入れて販売するスタイルであり、この場合、利益率がものすごく低くなってしまいますので、仕入れ先様と共同で自社専用の商品『OEM商品』を作り、売価も自分達で設定し、粗利が取れるようにしていきましょうと話しました。自社でいちから作るには、製造機器も必要ですし、時間もかかります。その点、OEM商品はスムーズだと言えるでしょう。
また、仕入れて販売するという今までのスタイルも、残したままとしました。
このように、粗利が取れる商品を作ったら、既存のところに販売し、それが上手くいけば水平展開を行い、法人営業先を広げていきましょうという流れとしました。
まず一つ、売上対策を取ってやめること。そして得られた空き時間でやることと、やる時の具体的な流れについて、決めていったという形になります。
次に、売り上げや経費を考えます。
基本的に利益を残すためには、売り上げを作り出し、経費を最小限にすれば利益が残るということになります。
そこでよくあるのが、経費の削減です。しかし、何が何でも下げればいいというわけではありません。
例えば、その一つの例として、接待交際費があげられます。営業に関する接待交際費を使って取引先様と仲良くなって売上を上げていく方法です。これは、結果的に、販売促進費に繋がってきます。チラシしかり、広告しかり、費用対効果を見ながら削減したり、効果が高いところは厚くしていく方法ですが、このような接待交際費とか広告宣伝費と言われるものが、この事業者様は多く使われていることが分かりました。売上との直結した関係性もあまりなく、大幅に削減をするようお伝えすることも考えましたが、社長の営業特性を見ると、ご自身で売ってお客様を作っていくということに長けた方であることが分かりましたので、ここは敢えて下げなくていいですとお伝えしました。
その上で、事務所の移転をご提案しました。
というのも、そこの事務所は手狭で、作業導線が非常に悪かったためです。
通常は、事務所はそのまま、経費は増やさない方向にもっていくのですが、私の場合は、作業効率を上げるため、家賃は少々高くなりますが、引っ越しをしてもらいました。
そして、決算書の作成や給与計算を、外部の専門家の方に頼んでやっておられましたので、そこにもう少し費用を上乗せして、それに伴う助言もしてもらえるようにしました。
それまでは、簡単な作業の依頼のみだったので、その分金額は安かったのですが、それでは、社長の知識や経験に何も結びつけることができないものとなっていましたので、ある一定程度の金額を支払って、意味のあるものとしたわけです。
利益を上げようと思ったら、一般的に『削減』していくことが普通なのですが、接待交際費はそのまま、いやむしろ上げていますし、広告宣伝費も上げていい、事務所も移転し賃借料が上がっている、外注費も上げることになりました。
そんなこと言ったら何を下げたんだということになりますが、その代わり、社長の給料を下げるというお話をしました。するともちろん、「給料を下げるぐらいだったら、他の経費下げたい」となるわけですが、「社長は会社をどうしたいですか?良くしたいんですよね。なら、社長の給料は減るけれども、接待交際費など他の経費はちゃんと使って経費のバランスを取っていきましょう。そして売上を上げることで利益を出しましょう」とお話をしました。
事細かく社長と打ち合わせをしながら、全部、社長が納得いただけた段階で進めていきました。
ご納得いただけなければ、ご提示しても、やってはいただけません。すると、私の存在意義もなくなってしまいます。
一言で言うと「売上を上げた」「経費を下げた」「支援をした」ということになりますが、実情というのは、『細かな支援』だと言えます。
事業者様は、返済できるぐらい利益を作りたい、そのために経営を改善したいと思われていて、私にご相談を頂きました。
そこに、一般的なアドバイスである「売上を上げていきましょう」「コストを下げましょう」「利益を出して返済していきましょう」といっても、実際はそこではなく、根本的に突き当たるのは、ビジネスモデルだと思います。それまでのビジネスモデルが、社長や社内の体制に合ってなかったことが、一番の問題だと思われました。
分かりやすく言いますと、食品の卸売業といっても、飲食店さんに個配送で毎日毎日配送する小回りのきく卸売業と、大きいところに1発どんと配送しておしまいという卸売業まで、業界にはさまざまなパターンの卸業者さんがおられます。この事業者様の場合においては、社長は後者、でも従業員は前者であり、社長の営業スタイルと従業員の営業スタイルに相違が見られました。そこで、まずそれを細分化し、明確に分けることをはじめました。
社長について言うと、粗利が取れる商品を作り、それを、従業員を活用して既存の取引先に提案してもらいます。つまり社長は、粗利ができる商品を作ることに特化してもらうわけです。ただし社長には、会社が提案できるような企業を見つけてくるという、もう一つの役目をお願いしました。
そして従業員は、既存の商品をルート営業で販売するのと合わせて、粗利が取れる商品の提案と、社長が見つけてきた大きい取引先へのご提案も行っていく、という流れです。
それまでは、社長も色々な配送をしていました。そして従業員も、新規取引先の獲得に動いていました。つまり、みんなで同じようなことをやっていたことになります。
しかしそこを細分化し、それぞれ得意なところに合わせて作業の分担をしてもらったということです。
食品の卸売業から、企画メーカーになる。自分のところで工場を持たない、ファブレスメーカーになるわけで、企画提案力や商品開発力を磨く必要があります。
これらを長期的視点に置きながら、今の仕入れ先さんからもそのまま仕入れるだけでなく、粗利が取れるよう改良を加えてOEM商品を出していくというように、ビジネスモデルを変えていきました。
管理体制の見直しについてですが、以前は、継続できないような管理体制となっていましたので、まずは継続できるようにしなければなりません。そこが、本質的な課題だったのではないかとも思っています。
例えば、外部にお願いしていたものがあげられます。販売促進や経理業務になるわけですが、単なる作業となっていたことにより、経営者や従業員には、知識・経験として何も残っていない状態でした。どういう風に決算書を見た方がいいのか、どういう販売施策を打っていった方がいいのか等、社長や従業員が思いついたことをただ外部に投げかけ、その都度お願いするだけだったため、本質的な部分が残ってなかったわけです。
継続していくためには、社長の役割、従業員の役割、外部人材の役割をしっかりと分けていく必要があります。そこを、社長と従業員にご納得いただき、分けていきました。
現状、この事業者さんの事業は、とてもうまく回っています。コロナ禍になって、色々な食品の製造業、卸売業、小売業で明暗が分かれたなという風に思うんですけれども、この事業者様においては、コロナ禍であっても、売上高が増加しています。コロナ以前とコロナ終わりの3年目で比較すると、売上は3倍ぐらいになっています。
利益についていえば、赤字からは脱却して黒字化していますし、金融機関様への返済もきちんとできるようになっているのです。