【創業100年弱の老舗和洋菓子製造業】
海外展開を見据えた卸売事業向け和菓子の商品開発・製造体制構築支援
和菓子店舗を中心として、ベーカリーやスイーツ専門店も展開し、オンラインショップによる非対面型販売にも取り組んでいる。
近年、百貨店での催事や国内外の展示会を契機として卸売事業にも進出、自社商品の卸売だけでなく、OEM生産にも力を入れている。
場当たり的な商品開発や設備投資、販路開拓を行っても、結果が出にくく、徒労に終わることが多いです。その結果、「頑張っているけど上手くいかない」という悪循環に陥ってしまいます。
その際には一度立ち止まり、目的を明確化し、手段を整理し、優先順位をつけて進めることが重要です。
当初、オーナー様を始め、管理職の方と話をさせていただいた際に感じたことは、改善や革新につながる良いアイデアをお持ちではあるが、そのアイデアを具体化するための施策が不足している、順序が異なっているということでした。
そこで、一事業を俯瞰的に考えるための事業計画書を、管理職だけでなく現場の意見も踏まえて策定しました。その際には、「何のためのこの事業を行うか?」「その目的を実現するための手段は何か?不足はないか?」「各部門が連携して進めることができるか?」「他に目に見えないリスクはないか?」などを検討しました。
その結果、事業計画書が完成した際には、オーナー様だけでなくプロジェクトメンバー全員が「この計画ならうまくいきそうだ!!」と明るく、前向きに発言され、現在では事業計画に沿って卸売事業の拡大に注力されています。
経営資源が不足している中小企業にとって、あれも、これも実施することはできません。
まずは、費用対効果、リスク&リターンを踏まえて、事業が動き出す『成功の流れ』を考えることが大事です。その後、その流れを正確に、そして早く回すことで事業拡大につながります。
現状 | 地域資源を活用した和洋菓子の商品開発に努め、年間で100種類程の和洋菓子を製造し、自社店舗を中心に販売している。丁寧に手づくりしたできたての美味しい菓子を届けたいという理念により、ほぼ全ての商品を各店舗にて製造しているが、売筋商品に絞って本社工場にて一括製造することで需要に対応している。 一方で、国内外の小売業者や卸売業者から新規取引依頼が多く発生しているものの、既存販路で販売する以上の数量を製造することが困難であるだけでなく、各社バイヤーの意向が反映された商品開発が進んでおらず、卸売事業の拡大に課題を抱えている。 |
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業種 | ■和洋菓子製造小売事業 創業100年弱の老舗和洋菓子専門店。 和菓子店舗を中心として、ベーカリーやスイーツ専門店も展開し、オンラインショップによる非対面型販売にも取り組んでいる。 近年では、百貨店での催事や国内外の展示会を契機として卸売事業にも進出し、自社商品の卸売だけでなく、OEM生産にも力を入れている。 |
年商 | 9億円程(2019年度) |
企業規模 | 従業員180名(取締役含む) 店舗数17店舗 |
一般的に、新規事業を検討する段階においては出口戦略から考えることが重要です。一例として、商品開発では一般消費者やバイヤーのニーズから、製造体制構築ではQCDの数値的KPIから、販路開拓では営業手法の水平展開の可不可から考えるように、私はアドバイスをさせていただいています。
当企業の場合、出口戦略の検討が不十分であり、いきなり卸売事業に参入しようとして、商品開発や製造体制構築、販路開拓を一度に全て解決しようとしていた点に無理がありました。そこで、本業でもある製造小売の強みを更に強化するためにも、製造体制の再構築にまず着手し、次に複数の試作品開発、現取引先関連のバイヤー評価、本格的商品開発、販路開拓と進めていくことが望ましいとご提案しました。
上記の提案を踏まえて、時間、資金、設備、組織などの複数の側面から検討された事業計画を策定し、その計画に沿って行動しながら、順次、計画をブラッシュアップするということもご提案しました。
まずは、出口戦略を踏まえた事業計画書を策定しました。その中でも、行動に必ずつながる部分を優先順位が高い施策として定め、まずは1年間実行してもらうことにしました。実行時点では、随時フォローアップを実施し、その都度、新たな経営判断や軌道修正を行いました。
●重点施策①:製造小売事業にも活用できる設備投資
将来的に卸売事業で利益高を増加させる場合、当企業においては、各店舗の加工設備を刷新するよりも本社工場の加工設備を刷新した方が、様々な面での費用対効果が高いと想定されたため、本社工場の加工工程を分析し、QCD面でボトルネックになっている工程を洗い出しました。
その結果、具材を混ぜ合わせる煮炊撹拌機、トンネル窯のコンベア増設、製品保管用大型冷蔵庫の設備投資を実施することで、本社工場全体での生産数量増加、品質向上、製造原価低減、納期短縮が図れることが数値的に判明しました。
また、設備投資初期段階では既存商品を製造し、段階的に卸売事業向け新商品を製造することで投資効果が高まり、導入後3年程で投資金額が回収できることも判明しました。
実際に設備投資を実施したところ、生産数量は3倍、不良品率半減、歩留まり率大幅改善、製造原価5%低減などの効果を得ることができました。
●重点施策②:バイヤーと連携した試作品開発
一般的に、卸売事業に参入する場合、商品開発時には自社の強みと一般消費者のニーズだけでなく、バイヤーの意向も検討する必要があります。当社の場合、これまでに卸売事業用で開発した商品に関して、バイヤーの意向が十分に反映されていないいうことを反省し、卸売事業向けの基本となる商品はどのようなものであるかをモデリングしました。また、海外で需要が高まっている和菓子市場の機会も念頭に置くことで、海外のバイヤーや一般消費者に受け入れられる商品はどのようなものかもモデリングしました。
その結果、評価基準として10項目を定め、それぞれ定性的、定量的に基準を設定しました。
(新商品開発評価基準項目の一例)
①顧客ニーズに合った商品の売りの存在
②国産原材料の使用
③輸出に対応した賞味期限設定
④各国に対応した添加物
⑤冷凍技術の確立
評価基準を踏まえて、実際に試作品を10種類開発し、バイヤーの評価を得ながら改良を重ね、現段階では国内外の複数の小売店舗などで販売を開始するまでに至っています。
「自転車に乗る際、最初に漕ぐ瞬間が一番きつい」ことは体感的にご存知のことと思いますが、新規事業も同様にスタート時点が一番大変です。その大変さを軽減するために必要な事業計画の策定について、適切に検討し策定されている企業は意外と少ないと私は感じています。
事業計画を策定することで事業が必ず成功するとは限りませんが、成功率は格段に高まると私は確信しています。
当企業をご支援させていただき1年が経過しましたが、順調に売上高と利益高を伸ばしておられ、当初はオーナー様を中心としたプロジェクトチーム主導で進めていた商品開発や販路開拓も全社的活動に広がっています。この良い循環を継続・発展させることで、3年後には売上高と利益高の大幅増加が見込まれます。
コンサルタントからの一言